2010年8月28日 土曜日

きび

開店準備を見守る老犬きび
開店準備を見守る老犬きび

 

 「きび」は私の犬の名前である。

 

 マルチーズに近い、白い雑種の小型犬。伯母が東風平のきび畑からヨレヨレの状態を拾ってきた。私が18歳の秋頃だったので、もう13年も前の話になる。

 

 同じ年の夏、父が死んだ。

 

 悲しみに暮れる弟妹の希望により飼うことになったが、困ったことに当時の私は犬が大の苦手であり、同じ部屋にいる時は食事をするのも嫌なほどであった。しばらくはかなり苦痛だったのを覚えている。

 

 ある日お腹をこわして眠るきびが気になり、夜中に何度も様子を見に行った。ダンボールから見上げる黒い瞳。ゆっくり背を撫でると薄い皮膚、やわらかくあたたかな生き物の鼓動。日を重ねるごとにきびは私になついていった。なつかれるとやはり可愛いもので私はすっかり犬好きになり、それどころか嫌がるきびの肉球をむりやり嗅いでは喜ぶまでになってしまう。

 

 実家を出る時、きびも一緒に連れて出た。私は今まで6回引越しているが、思えばすべて一緒だった。そしてどんな時でも私に「大好き」を一途にぶつけ続けた。犬とは不思議な生き物である。どうしてそんなに人を信じられるのか。

 

 きびは今年の夏、静かに息を引き取った。

 

 拾ってきた時すでに成犬だったので、推定年齢15歳。大往生と言えるだろう。

 

 もっとしてあげられたはずでは・・・悔いは尽きないが、真っ直ぐ見上げる黒い瞳はこれからも私をあたため続ける。

 

(夜カフェ「rat&sheep」共同経営者)

執筆者:國吉真寿美 | 話の玉手箱

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